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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)7403号 判決

被告 豊栄信用組合

理由

一  請求原因一の事実は当事者間に争いがない。《証拠》を総合すれば、本件建物は原告が、昭和二八年三月二〇日東京都新宿区長より新築許可の確認を受け、原告所有の土地上に、同年五月頃訴外株式会社小玉工務店に請負わせて建築したもので、建築費その他の工事代金もすべて原告が支払つたものであること、建物完成後暫時原告の両親が右建物に居住していたが、同年夏頃原告の兄訴外直井精一が結婚して家がないところから、同人夫婦が同建物に居住するようになり、両親は同建物の敷地内に新築した原告所有のアパートに原告と居住するようになつたこと、訴外精一は、本件建物を原告から無償で借受けていたので、右建物に居住中は、東京都等から原告名義で請求される水道料、瓦斯代および電気代等は、もつぱら訴外精一において支払つていたことが認められる。

もつとも、固定資産税課税台帳に、本件建物の所有者が、訴外直井精一として登録され、同人名義で同税金が賦課されていることは当事者間に争いがなく、《証拠》によれば、訴外直井精一が本件建物に居住中原告にかわつて、同税金を支払い、表札も訴外直井精一名としていたことが認められるが、右事実をもつて前記認定事実を覆すには足らないし、他に前記認定事実を覆す証拠はない。

以上の認定事実によれば、本件建物は原告の所有に属することが明らかである。

二  被告は、原告において、本件建物の所有権取得登記がない以上、正当な差押債権者たる被告に所有権をもつて対抗できないとの趣旨の抗弁をするので、案ずるに、原告が本件建物の登記をしていないことは《証拠》から認められ、被告が本件強制競売の申立をなすに当り、訴外直井精一名義をもつて同建物につき代位による所有権保存登記をなしたことは当事者間に争いがない。しかしながら、たとい、右のように代位により訴外直井精一名義で登記がなされておつても、同人は、本件建物の所有権者でないこと前記認定のとおりであるから、右は実体上の無権利者の登記として、何等の効力も有しないものというべきである。そうだとすると被告主張のような対抗力の問題を生ずる余地はないものといわなければならないから、被告の抗弁は理由がないものとして採用しない。

三  以上のとおりとすると、被告がなした本件建物に対する強制執行は原告の有する所有権を侵害すること明らかであり、これが執行の排除を求める原告の本訴請求は理由があるから正当として認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、強制執行停止決定の認可および仮執行宣言につき同法第五六〇条、第五四九条、第五四八条を各適用して主文のとおり判決する。

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